炎症
 脳には血液脳関門という防御壁があり、これがウィルスや有害物質や毒素などの侵入を防いでいます。
 しかし体内のどこかで慢性的な炎症が起きると、炎症性サイトカインというたんぱく質が過剰分泌され、これが血流に乗って脳まで運ばれます。血液脳関門はこの炎症性サイトカインにさらされると穴が空いてしまうのです。そしてその穴から、様々な炎症を引き起こす物質が脳内に侵入し始めます。
 実際に死亡したアルツハイマー病患者の脳を解剖すると、そこには通常存在するはずのない、様々な病原体がひしめいています。口内バクテリア、顔や唇のヘルペス、鼻から入り込んだカビ、ダニがもたらすボレリアなど。
 病原体や有害物質が侵入した時、脳はこれに対する反応としてアミロイドβを分泌します。
 アミロイドβは長らく何の役にも立たない物質だと思われていましたが、近年、その毒で侵入者を殺す、抗菌薬としての機能があることが分かりました。
 しかし、異物の侵入が止まらなければ、脳の炎症は治まることがなく、アミロイドβは慢性的に分泌され続け、その毒はやがて自らの神経細胞やシナプスまでも破壊してしまいます。
酸化
 リンゴやバナナの皮を剥き、しばらく放置しておくと、徐々に劣化が進み、どす黒く変色して萎びていきます。これを酸化といいます。
 人間の細胞は酸素を取り込むと、同時に必ず活性酸素を発生させます。この活性酸素は有害で、あなたの細胞を傷つけ、酸化させます。そのため人間の体内には、この活性酸素を消去する抗酸化酵素や抗酸化物質が備わっています。
 ところが20歳を過ぎた頃から、これらはどんどん少なくなっていき、私たちの体内では活性酸素が優位になっていきます。すると細胞や組織が酸化し始めます。
 酸化は私たちの皮膚や内臓を老化させます。ガンや血管系の病気などの80%以上は酸化が原因であると言われます。
 酸化により脳の神経細胞は傷つき、変色して劣化していくリンゴのように、徐々に認知機能が低下していきます。
 さらに最近の研究で、酸化ダメージが蓄積した脳は、恒常的にアミロイドβを生み出すことがわかっています。
栄養不足
 必要不可欠なホルモンや栄養が不足すると、脳内ではアミロイドβが分泌されることが分かっています。これは最高責任者であるAPPが栄養不足を感知し、脳のサイズダウンを執行するからだとされています。
 栄養が不足すれば脳の血管や細胞の老化も進みます。すると血管や細胞は固くなり、分泌されたアミロイドβを分解・排出する力が弱まるため、蓄積がいっそう進みます。さらに神経細胞のアミロイドβやタウの毒に対する抵抗力も失われ、シナプスの死滅も加速することになります。
 2016年の神経科学学会の研究によると、90代で亡くなるまで優秀な記憶力を維持していた人たちの中には、アミロイドβでいっぱいの脳もあったそうです。
 彼らが記憶力を維持できた理由は、アミロイドβの毒に対抗できるほどにシナプスが強化されていたからだという説が有力です。シナプスにたっぷりと栄養を与え、適度な運動と知的活動を続けることによって、シナプスを強化し、認知機能を高めることが可能だと考えられています。
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